会社を設立後、金融機関での口座開設や融資、許認可の申請、重要な契約の締結など、さまざまな場面で「会社の登記簿謄本」の提出を求められます。しかし、法務局で書類を取得しようとすると「履歴事項全部証明書」や「登記事項証明書」といった言葉も出てきて、どれが正式名称で、何を取得すれば良いのかわからないこともあるかもしれません。これらの用語は、実はほとんど同じ書類を指すものとして使われていますが、厳密にはその成り立ちや内容に違いがあります。本記事ではこれらの用語の違いや、実務上はどの書類を準備すればいいか解説します。法人の登記簿謄本とは?「法人の登記簿謄本(とうきぼとうほん)」とは、その会社がどのような法人なのかを法的に証明するための公式な書類です。会社の「身分証明書」というイメージです。これには、商号(会社名)、本店所在地、事業目的、資本金の額、役員の氏名といった、会社法で定められた法人の重要な情報が記載されています。この情報は一般に公開されており、手数料を支払えば誰でも取得することが可能です。これにより、取引の相手方が信頼できる会社かどうかを客観的な情報に基づいて判断でき、安全な経済活動に不可欠な制度となっています。会社は、登記された情報に変更が生じた場合(例えば、役員の交代や本店の移転など)、その変更があった日から2週間以内に法務局へ変更登記を申請する義務が課せられています。「登記簿謄本」はかつての呼び方の名残かつて法務局ではこれらの情報を「登記簿」と呼ばれる紙のファイルで管理していました。その登記簿の記載内容をすべて写したものが「謄本(とうほん)」と呼ばれていたため、その名残で今でも「登記簿謄本」という呼び方が広く使われています。現在では登記情報はすべてコンピュータのデータとして管理されています。そのため、現在法務局で発行される書類は、物理的な登記簿のコピーではなく、登記データを印刷した「登記事項証明書」が正式な名称となります。法人の登記簿謄本のサンプル・記載項目以下は法人の登記簿謄本の1ページ目のサンプルです。法人の登記簿謄本の代表的な記載項目①【会社法人等番号】 会社に割り当てられた12桁の固有の番号です。②【商号】 会社の正式名称です。「株式会社」の位置が社名の前か後かも正確に記載されます。③【本店】 会社の正式な住所です。【公告をする方法】 会社が株主などに対して重要な情報を知らせる方法(官報、新聞、電子公告など)が記載されます。【会社成立の年月日】 法務局に設立登記が受理された日であり、会社の誕生日です。④【目的】 その会社が行う事業内容が具体的に記載されます。【発行可能株式総数】 会社が将来発行できる株式の上限数です。【発行済株式の総数並びに種類及び数】 現在発行されている株式の総数です。【資本金の額】 会社の資本金の金額が記載されます。【役員に関する事項】 取締役や監査役、代表取締役などの役員の氏名、住所、就任や辞任・重任などの年月日が記載されます。呼び名は違うが同じような書類がある実務の現場では、「登記簿謄本」の他にも、以下のようなさまざまな呼び方が使われます。履歴事項全部証明書登記事項証明書会社謄本登記簿のコピーこれらの用語は、厳密な定義は異なりますが、ビジネスシーンで「会社の登記情報がわかる公式な書類」を指す点では、ほぼ同じものです。法務局の窓口で「登記簿謄本をください」と伝えれば、担当者はどの書類が必要かを確認してくれますし、「会社の謄本」と言っても問題なく通じます。なお、数ある証明書の中でも、提出を求められるケースが最も多いのが「履歴事項全部証明書」です。これは、現在の登記情報だけでなく、申請日から遡って3年間の役員変更や本店移転といった主な変更履歴もあわせて記載されている情報量の多い書類です。金融機関や行政機関が会社の継続性や過去の変遷を確認した上で手続きを進めることが多いため、この履歴事項全部証明書の提出を求められるのが一般的です。したがって、取引先などから「会社の謄本を提出してください」といった依頼をされた場合は、履歴事項全部証明書を取得すれば、おおむね問題はないでしょう。登記事項証明書の一つが履歴事項全部証明書「登記事項証明書」には、記載される内容に応じていくつかの種類があります。「履歴事項全部証明書」は、その最も代表的な書類で、用途に応じて以下のような証明書を取得できます。履歴事項全部証明書 現在の登記情報に加え、過去3年間の主な変更履歴(役員の就退任、商号変更、本店移転など)が記載されます。最も情報量が多く、一般的な証明書です。現在事項証明書 現在の登記情報のみが記載されます。過去の変更履歴は省略されるため、若干スッキリしています。現在の役員構成などをシンプルに証明したい場合に適しています。閉鎖事項証明書 会社の解散や他の会社との合併などによって閉鎖(削除)された登記記録が記載されます。過去に存在した会社の情報を確認したり、清算手続きを進めたりする際に用いられます。代表者事項証明書 会社の代表権を持つ者(通常は代表取締役)の氏名や住所など、代表者に関する情報のみを抜粋して証明する書類です。契約や裁判の手続きなどで、代表者の資格証明のみが必要な場合に利用されます。「登記事項証明書」には用途別の4つの証明書が存在する、と理解しておきましょう。GVA 登記簿取得なら各種の登記事項証明書を請求できる登記事項証明書が必要になった際、平日の日中に法務局の窓口へ行く時間がない、という経営者の方も多いでしょう。そんなときに便利なのが、法人登記簿請求クラウドの「GVA 登記簿取得」です。GVA 登記簿取得なら、法務局へ行くことなくWebサイト上でいつでも登記事項証明書の交付請求を依頼できます。クレジットカードで決済できるため、手続きもスムーズです。このサービスでは、本記事で解説したほとんどの証明書に対応しています。履歴事項全部証明書現在事項証明書代表者事項証明書また、できるだけ早く登記内容を確認したいという場合は「お急ぎ登記情報PDF」の取得も可能です。これは法務局が発行する公的な証明書(原本)ではありませんが、最新の登記内容をPDFファイルとしてスピーディーに確認できるため、社内での情報共有や契約内容のドラフト作成などに役立ちます。各用語を理解し、最適な書類を準備できるようにしましょうここまでで紹介した「登記簿謄本」「会社謄本」「履歴事項全部証明書」「登記事項証明書」といった用語は、実務上はおおむね同じ書類を指す言葉として通用します。ただし厳密にはそれぞれが持つ意味合いは異なり、特に「登記事項証明書」には複数の種類があります。提出先がどの範囲の情報を求めているのか(現在の情報だけで良いのか、過去の履歴も必要なのか)を正確に把握することで、無駄のない書類準備ができるようになるでしょう。